「PCR検査が陰性なのに自粛はおかしい」という主張のおかしな点

タイトルの文言、最近になってよく聞かないだろうか?

 

あんまり名指しするのは良くないが、私はダウンタウン松本人志氏が似たようなことを言っていた記事をスマホニュースで見かけたことがあった。

濃厚接触者でも検査が陰性なのに10日間も待機、海外ではそんなことはしない」といった内容だったと記憶している。

松本人志「意味わからん」PCR検査陰性・無症状も濃厚接触で自主隔離、ビートたけし「オミクロン株はただの風邪」政府のコロナ対策に不満爆発の理由(週刊女性PRIME) - Yahoo!ニュース

 

正直、それを言ってしまう気持ちは私もとても理解できる。そんなに怖がってしまえば仕事になんかならないし、第一検査をする意味なんて無いと考えても不思議じゃない。

 

ただこの発言は支離滅裂すぎて自分の中で引っかかってしまう部分がある。それは「PCR検査が陰性なことは外出自粛をしなくて良い理由には全くならない」にも関わらず、あたかもそれが関係しているかのような言い回しをしているからだ。

 

思い出してみればコロナパンデミック初期にはこの事実は世間にとっての常識だったはずだと思うのだが、それがいつの間にか忘れ去られてしまっている。

今一度、PCR検査の概要とその意味について皆さんと一緒に思い出していきたいと思う。

 

目次

 

PCR検査とは

 

前回の記事でも少しだけ語ったが、PCR検査は「特定の遺伝子を増幅せて発見しやすくし、その遺伝子が存在するかを確かめる検査」である。

【コロナ】ワクチンの仕組みを底辺理系が説明する試み【mRNAワクチン】 - santensetのブログ

 

なんだか昨今では「コロナウィルスを見つけ出す最強検査!!」みたいなノリでニュースでやってたり、立憲民主やらの野党が「検査やれよおおおお!!」みたいな怒涛の叫びをしているが、あくまでこれは「遺伝子を特定できる検査」というだけである。

 

つまるところ、PCR検査はウィルスを検査しているのではない。遺伝子が存在するかを検査しているだけであり、しかも増幅なんてしてるところからわかるように定量以下の遺伝子量、つまり一定量以下のウィルスは検出できないのである。

 

PCR検査には一定量以上のウィルスが必要

 

定量以上のウィルスとは具体的にどれくらいなのか?

 

最も確実なのは「感染後、発熱等の症状が発症している時」が確実なPCR検査結果が期待できる。

というのも、発症というのは、ウィルスの場合、ヒトの細胞を利用して自己増殖をし、ウィルス数が爆発的に増えたことで生じるものである。潜伏期間のようなまだ悪さをせずに潜んでいる段階では症状が出ないのはそのためだ。

 

つまり発症段階になればウィルスはたくさん増えた状態なため、確実なPCR検査の結果が期待できるわけである。

 

コロナの潜伏期間

 

発症するまでの潜伏期間、PCR検査をしても実際には感染しているのにウィルス(正確には遺伝子)量が足りなくて陰性の結果が出てしまう「偽陰性」になる確率が大きい

 

ではコロナの潜伏期間はどれくらいだっただろうか、思い出してみてほしい。

 

そう、1〜14日間がコロナウィルスの潜伏期間だ。

早ければ1日後に発症することもあるが、14日後に発症する例も多い。

つまりはコロナに感染しても最大14日後まではPCR検査では陽性判定にならない可能性があるわけだ。

 

PCR検査で保証出来るのは「14日前までだけ」

 

そうなると、PCR検査で陰性というのはコロナに感染していないではなく、「検査日から14日より前の時点で感染は無かった」ということが分かるだけである。

要するに「検査日より14日前以内の感染の有無について確実な判定ができない」のである。

 

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図.PCR陰性だった場合の意味、14日以内に感染していたら検出されない「偽陰性」になる可能性がある

 

もちろん、人によっては発症が早く、1日後でもPCR陽性になる例もあるであろう。だが「最初検査したら陰性だったのに、検査しなおしたら陽性だった」という事例も多いのである。これはよくニュースでも耳にすることであろう。

 

芸能人だって最初はわかっていたはずなのに

 

ニュースでやっていたくらいなのでみんなこういった事例があることはよく知っているだろうし、先にあげた松本人志氏をはじめ、芸能人の人達もコロナ禍初期の頃に知っていたように記憶している。

 

ところが最近になって、すっかり忘れてしまったのか「PCR検査で陰性なのに自粛しろというのはおかしい!」という言い分がたくさん出てきてるのがとても違和感を感じる。ましてや、濃厚接触者に該当した者ならば、先に説明した14日前以内にコロナ患者と接触したパターンが多いだろうし、最初に行ったPCR検査の結果のみで自分は大丈夫だと言い張るのは大きな間違いと言わざるを得ないだろう。

 

気持ちはすごくわかる

 

ただこう言いたくなる気持ちはとてもわかる。

結局濃厚接触者に該当した以上自粛をしなければならなくなるなら、PCR検査など意味を持たないのではないか?

私でもそう考えてしまうことが多い。

 

だが、むしろいったん逆に考えてみてほしい。もしも濃厚接触者でPCR検査で陽性が出た場合どうなるのか?

 

前述したように、PCR陽性になるということは、それだけ体内のウィルス量が増えているということになる。無症状や軽症でも検知されるほどのウィルスがその人の体内にあることになる。

すると当然だが、その人は周りの人をコロナ感染させてしまう状況になっているわけだ。そうなったら最初の感染者と同じように行動履歴を追い、感染爆発が起き得る場所を訪れてないか確認と対応をする必要がある。そうしなければ感染爆発が拡大していき、一気に社会活動・経済活動が停止しかねないし、デルタ株の時のような医療ひっ迫が起きかねないだろう。

 

しかし、PCR検査を行わずにそれを阻止するのであれば、すべての濃厚接触者の行動履歴を追って対応しないとならなくなる。

そんなことしていたらその対応のためだけに多くの人員が割かれ、片っ端から建物を閉鎖するようなものだから社会活動も完全に停止してしまうだろう。

 

だがPCR検査を行い、対象を陽性者のみに絞り込めばそのような事態に陥る可能性は抑えられる。

要するに濃厚接触者に対するPCR検査は「あなたが感染してないかどうかを確かめる」というよりも「もしもあなたが陽性になってた場合、社会の健康を維持するための対応をしなくてはならない」といういわば確認のための作業と言えよう。

 

よって、PCR検査陰性が濃厚接触者という状態を払拭してくれる太鼓判にはなり得ない。そして陰性でも14日以内なら感染してる可能性があるのは先に説明した通りである。

 

芸能人やインフルエンサーは自覚を持って欲しい

 

以上、PCR検査が必ずしも感染有無を保証する検査にはなり得ないことを説明した(というか思い出してもらった)。

 

PCRは元々遺伝子を増幅させる時間を要することから判定まで時間がかかるし、潜伏期間の兼ね合いで14日経たないと確信ができない。そのことは医療関係者も熟知しており、新しい検査方法なども現在開発中のようである。

だが、現状我々が頼りにできる検査はPCR検査法だけだろう。

 

限られた手段ゆえに、間違った認識で運用していくのは非常に危険が伴う

代替手段が今のところほとんどないし、治療薬だって存在しないからだ。

 

それゆえ知識に基づいた慎重な判断が求められるわけだが、それを一番妨害をしているのが先に言った松本人志氏のような「間違った認識でコロナ関係の発言をしてしまう芸能人・インフルエンサー」の人々と言わざるを得ない。

 

彼らは人間性や信念を大事にして発言しているのかもしれないが、間違った知識・認識に基づく信念は危険を運んでくるのみでしかないことをもっと自覚してほしい。

 

芸能人やインフルエンサーの人ならその影響力は絶大だ。「あの人が言うんだから間違いない」と考える人が多数いることを忘れないでほしい。

もしも自分の間違った認識を広めたことで一般人が大量に死亡するようなことがあったとしたら?

そうなってからでは遅いし、言った本人の精神的負担も大きなものになるだろう。

 

最近はオミクロンが重症化しにくいとかもあったりしているが、これだってまだウィルス自体が弱毒化してるのかワクチンの効果のおかげなのかすらはっきり分かっていない。

 

ただ実際には確かに濃厚接触者の自粛期間を短くしていく動きにはなっているが、これはコロナの病原性が落ちたというより、そうしないと社会が維持出来なくなるから仕方なく短くせざるを得ないという認識の方が正しいだろう。このことは厚生労働省の資料から見てとることができる

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000881512.pdf

もはや誰かが死んだとしても社会活動を維持しなければならない地点まで来ているのだ。もちろんオミクロン株の弱毒化可能性やワクチン効果、14日間というのはあくまで最長での潜伏期間であることなどを考慮した上での短縮ではあろうが。

 

私もなんでもかんでも自粛すれば良いとは思わないし、残酷だがある程度見切りをつけなければならないのは事実だと思う。何せ経済活動ができなくて自殺してしまう人だっているのだから。

私の仕事はある種の研究業なのだが、こればかりは実際の場で行う実験がある以上、テレワークで済ませることができない。テレワークを適用できる範囲は職種にも依るので、一概に全てを自粛というのは現実的ではないであろう。

 

さらに深く言うと、実は私も親戚をコロナ後遺症で亡くしている。コロナにはとてつもない怒りを感じてすらいる。

その私ですら見切りをつけなければならないかもしれないと言ってしまうくらいなのだからコロナによってまだまだ人類は追い込まれている最中だと言えるだろう。

 

だからこそ

芸能人、インフルエンサーの方はご自身のコロナ観についての発言を慎重に考えてほしいものである。

底辺理系出身一般ピーポーのささやかな願いだ。